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最高裁判所第三小法廷 平成4年(し)120号 決定

申立人

銭谷芳巳

主文

本件各抗告を棄却する。

理由

本件各抗告の趣意は、いずれも、違憲をいうが、その実質は単なる法令違反の主張であって、刑訴法四三三条の抗告理由に当たらない。

所論にかんがみ、職権により判断する。

原決定の認定によれば、被疑者山村忠は、本件当時大阪府泉北警察署長から委嘱を受けた少年補導員であり、同警察署の警察官ら及び他の少年補導員らとともに少年補導に従事していたものであるが、申立人及びその友人らと少年補導員らとがもみ合いになった際、申立人に対し暴行を加えたというのである(なお、原決定は、右暴行について右山村と警察官らとの共謀は認められないとしている。)。刑法一九五条一項は、「裁判、検察、警察ノ職務ヲ行ヒ又ハ之ヲ補助スル者其職務ヲ行フニ当リ」と規定しているところ、同条項は、これらの国家作用の適正を保持するため、一定の身分を有する者についてのみその職務を行うに当たってした暴行、陵虐の行為を特別に処罰することとしたものであり、このような特別の処罰類型を定めた刑法の趣旨及び文理に照らせば、同条項にいう警察の職務を補助する者は、警察の職務を補助する職務権限を有する者でなければならないと解するのが相当である。ところで、記録によれば、右少年補導員制度は、少年警察活動について関係のある有志者、団体等との連絡及び協力を指示する警察庁次長通達(昭和三五年三月一八日警察庁乙保第六号「少年警察活動要綱の制定について」)の趣旨を受けた大阪府警察本部通達(昭和五六年三月三一日例規(少)第二二号「少年補導員制度の実施について」。以下「実施通達」という。)によって創設されたものであること、右少年補導員の任務は、非行少年等の早期発見・補導及び少年相談、少年をめぐる有害環境の浄化、非行防止のための地域社会に対する啓もう、その他地域の実情に応じて必要な活動に関することとされていること、実施通達の定める少年補導員制度実施要綱は、少年補導員が法的に何らの職務権限を有するものではないことを明示していることが認められる。少年補導員制度がこのようなものであることからすると、少年補導員は、警察署長から私人としての協力を依頼され、私人として、その自発的意思に基づいて、警察官と連携しつつ少年の補導等を行うものであって、警察の職務を補助する職務権限を何ら有するものではないというべきである。したがって、右山村は刑法一九五条一項にいう警察の職務を補助する者に該当せず、同人の本件行為は付審判請求の対象とならないとした原決定は、正当である。

よって、刑訴法四三四条、四二六条一項により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官尾崎行信 裁判官園部逸夫 裁判官可部恒雄 裁判官大野正男 裁判官千種秀夫)

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